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小手先クリエイターは目先の利益で死に、偉大なクリエイターは時間を武器にする

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ソニー生命保険が2017年に中高生1000人に対して行った将来なりたい職業ランキング調査によると、男子は1位ITエンジニア・プログラマー、2位ゲームクリエイター、3位動画投稿者であり、女子の場合は1位アーティスト・芸能人、2位イラストレーター・アニメーター、3位医師ということで上位のほとんどをクリエイティブ業が占める結果となりました。

誰でもできる労働ではなく、好きなことや個性を活かした仕事をする人も増えてきてはいますが、彼らの全てがクリエイティブなことで食えているわけではなさそうですし、本物と呼ばれる人はほんの一握りのように思えます。

好きなことでいきなり食えるのはほんの一握り。二足のわらじを履き将来のために腕を磨くか、空腹を凌ぐか。

「火花」で芥川賞を受賞したお笑い芸人の又吉直樹さんは、芸人になったばかりの頃はアルバイトの面接にすら受からずに空腹をしのぐために本を読みあさっていた時期があり、売れ始めるまでに10年もかかったといいます。

「必要がないことを長い時間をかけてやり続けることは怖いだろう?

一度しかない人生において、結果が全く出ないかもしれないことに挑戦するのは怖いだろう。無駄なことを排除するということは、危険を回避するということだ。臆病でも、勘違いでも、救いようのない馬鹿でもいい。リスクだらけの舞台に立ち、常識を覆すことに全力で挑める者だけが漫才師になれるのだ。」(火花より)

実際、多くのクリエイターの経歴を調べてみると、最初から好きなことで食べていけるような人はあまりいないことがわかり、おおよそ2つのタイプに分かれています。一つは会社や学校にいる間にスキルや活動資金を貯めつつ自分の作品を作るタイプで、もう一方はお金を切り詰めながら好きなことを愚直に続けるタイプです。

例えば、「キングダム」の原泰久さんは電機メーカーに27歳まで勤めてから漫画家を目指しましたし、「君の名は。」の新海誠さんもアニメーションの会社を経て自主制作を進め、「えんとつ町のプペル」の西野亮廣さんはお笑いでの収入があったからこそ一つの絵本に4年もの時間をかけることができたと言います。

4年以上もかけて作られた絵本 (にしのあきひろ) Photo by Amazon

お金を切り詰めたタイプであれば、芸人や俳優の世界は売れていない間はバイトで食いつないだり、絵の天才葛飾北斎は絵を描くために弟子入りしたにも関わらず、好奇心から他派の絵を模写していたために破門され、40歳近くまで貧乏生活だったと言います。

貧困とは選択肢が少ない状態というのであれば、どの苦しみを選びどの楽しみを選ぶかを決めることができる我々は豊かと言えるでしょう。自分の好きなことを選べば当然、食っていける保証もないですし売れる保証もなく孤独な苦しみはありますが自分の人生を生きているという実感を得ることはできるでしょう。その苦しみを味わいたくないというのであれば最初からお金のために自分の人生を他人に預けていればいいのです。

偉大なクリエイターが長期にわたって自分の作品を作っていけるのも、貧乏に耐えることができたのもおそらくは彼らが「好きなこと」が原点にあったからでしょうし、自分の人生は自分で切り開くという意識があったからでしょう。

我が道を行く先に見える物もある。

ワンピースの作者である尾田栄一郎さんが漫画家を目指そうか進路で悩む中学2年生からの「大学に行かれていたのですよね?中学、高校の時、入ってた部活はマンガやイラスト関係ですか?」との質問に対して次のように答えています。

『大学っつっても、僕1年でやめてるからね。それに僕の経歴で絵とかマンガを習うようなことは全然なかったです。まわりのプロのマンガ家さんもけっこうそんな人ばっかですよ。まじめな質問なのでまじめに答えるけど、どういう専門学校に行っても、人に頼ろうとするのが一番危険なんだと思うよ。』

事実、偉大なクリエイターの中には独学の人が非常に多いのですが、それは彼らが『大きな岩を動かしたければ、はじめから「みんなであの岩を押そうよ」なんていってないで、まず一人で押してみる。』という気持ちが強く人生は自分の手の中にあると考えている人が多いからでしょう。

才能やIQは関係ないことがわかった。

アメリカで経営者、教師、心理学者となり”成功者の条件”を研究したアンジェラ・リーダックワース氏によると、”成功者の条件”には才能やIQは関係なく、「やり抜く力」が大切だといいます。

「”やり抜く力”と”才能”は、たいてい無関係で、場合によっては、反比例することもあるんです。(中略)

やり抜く力は 明けても暮れても 自らの将来にこだわることです。その週だけとかその月だけではなく、何年もの間 一生懸命に取組みその夢を実現することです。やり抜く力は短距離走ではなく マラソンを走るように生きることです。」

世界に影響を与えるクリエイターの共通点として顕著なのは、彼らのほとんどが長期にわたって作品を手がけており、村上春樹さんは29歳で小説を書き始め賞を受賞するまで1年かけ、「キングダム」は構想から絵に移るまでに2年、にしのあきひろさんの最初の絵本「Dr. インクの星空キネマ」は制作に5年、新海誠さんの最初の作品『ほしのこえ』も一人で7ヶ月かけて作られたと言います。

そもそも、新人とプロが同じ土俵に立てば勝てる要素は少ないですが、人気のクリエイターになるほど仕事量が増え使える時間が限られてくるので、売れていない頃というのは時間を使うことによってプロでも真似できないような作品を生み出すことができる可能性があります。

時間をかければ勝てる可能性はある Photo by Pixiv

スタンフォード大学で行われた実験で、4歳〜6歳の子供の前にマシュマロを1つ置いて「私はちょっと用がある。それはキミにあげるけど、私が戻ってくるまで15分の間食べるのを我慢してたら、マシュマロをもうひとつあげる。私がいない間にそれを食べたら、ふたつ目はなしだよ」と言って子供の行動を隠しカメラで撮影していました。

その結果、子供のうち3分の2が耐えきれずマシュマロを食べてしまい、3分の1が二つ目のマシュマロを手に入れましたが、追跡調査の結果、15分間自分を自制できた子供は数十年後、成績や進路に関してはるかに優秀な結果を残していることがわかり、IQよりも自制心があるかどうかが重要だと決定づけられました。

多くの小手先クリエイターが目の前の利益を手に入れるために、儲け話、安易な賭け、無難な道へと進んでいきますが、少なくとも世界で通用するクリエイターは己を制することに関しては一貫しているように思えます。

キングダム作者「やらない理由よりやる理由を」

とはいえ、中には”ヤルヤル詐欺”といって自分ではクリエイターを騙りながらも作品制作に関しては”アイデアがまだ浮かばない”、”スキルを身につけてから取り組む”といった人物も存在し、いわゆる”起業準備中”という行動を後回しにすることがクセとなった人物も存在します。

30歳で初めて漫画を描き始め、「ドラゴン桜」、「インベスターz」、「マネーの拳」などのヒット作を生み出し続ける三田紀房さんは、能力に自信のない人に対して次のように述べています。

『四の五の言わず、ペンを手に取ればいいのだ。いくら練習を重ねても、マンガを描かないことには世間は何の評価もしないし、そこには一銭の価値も生まれない。人が作ったものに文句を言うことができるなら、自分でやってみればいい。世の中、「やったやつ」がエライのである。』

世の中、ヤッた奴だけが前へ進める Photo by pixiv

実際、優れた作品を遺している人はただ単に、制作している作品が多いということが分かっており、正岡子規は優れた作品を研究した時に「どんな人が素晴らしい名作を残しているかを研究したところ、名作を遺している人は寿命が長い人が多かった。」と言っています。

ではどのくらいの作品を作ればいいのかといえば、それはあなた自身がどういったクリエイターになりたいかにもよりますが、例えば偉人でいえばピカソは生涯に15万点近くの作品、ダヴィンチは13000ページ、エジソンは3500冊のメモを残しています。

ドラゴンボールの鳥山明さんは23歳で漫画を描き始め、編集者から「今は下手だが頑張れば何とかなるかもしれないから、もっと描いて送ってよ」と言われており、ボツ原稿は1年間に500ページにも及んだといいます。

多作をしていくことによって経験やスキルが増えていき、自分に何ができるのか、どういった作品が偉大と呼ばれるのかといったことも次第に分かってくるようになるためにここぞというときに生み出す作品に魂がこもるようになるのでしょう。世間では天才と称される人ですら多作をしていますが、実績もスキルもない凡人が一端のクリエイターになるとするのであれば少なくともそれくらいの制作活動を行っていく必要がありそうです。

ダ・ヴィンチがモナリザを描くまでに10年以上もの月日が流れた。

「キングダム」の原泰久さんがまだ売れていなかった頃、「スラムダンク」、「バガボンド」の井上雄彦さんからもらった手紙には次のようなことが書かれていました。

『特別な作品、作家になりたいのか、それとも普通の作品、作家でいいのかの覚悟のほどを今問われているということでしょうな。』

結局、世界を驚かせるような作品を生み出したいとか、名作を作りたいと考えている人たちも行動しなければなにも価値は生み出されないわけで、「やらない理由より、やる理由を」考えていく者のみが前へと進んでいけるのでしょう。

多作はする。でも半端なものは世に出さない。

孫正義さんの弟でありガンホー会長の孫泰蔵さんから聞いた話なのですが、スティーブ・ジョブズは生前よく「この地球を揺さぶるものしか世に出さない」と言っていたようです。

確かに、多作をしたとしてもゴミが増えるだけならそこに価値は生まれないので、どこかで”質量転換”が起こらなければ当然人々は作品に価値を見出すことはないでしょうし、特に国民総クリエイター時代においては大量にあるコンテンツでいかに他と違う価値を生み出せるかがカギとなってきそうです。

1つのWebサイトデザインで1000万円以上もの値がつく世界的Webデザイナーの中村勇吾さんは、使う人が気持ちいいと感じるデザインが価値を生むと考え、Webを作る秘訣として次のように語っています。

『ぶっちゃけ何回試行錯誤したか。いや違う、これ違うって100回くらい試行錯誤繰り返したのでは、やっぱり100回繰り返した方がいいと思うんですよね。自分の中でいかに試行錯誤をできるかというのはすごく大事にしてますよね。』

捨てた数が多いほど残りの価値は高くなる

クリエイターというのは敷居の高い職業というわけではなく、今の時代は紙とペン、もしくはスマホやパソコンさえあれば誰でも参加できるため、どういったクリエイターになるのかといった"在り方"が問われています。

「サマーウォーズ」、「時をかける少女」、「バケモノの子」などのアニメーション映画をヒットさせた細田守さんは、作品を作るということは少なからず多くの人に影響を与えるという強い意識を持っており、作品とは自分が作るものではなくて作らされるものだと述べています。

『自分がこうしたいとか、こう作りたいとかっていうことで映画が御せるなんて大間違いで、その作品に引きずり回されるというか、「作品のためにお前死ね」みたいなぐらいの勢いで迫ってくるわけだよね。作品っつうのは。もがいてもがいて見っけるしかないんですよ、本当。天才こんな苦労しないよ、多分。』(プロフェッショナル仕事の流儀)

細田守氏
By Paul Katzenberger - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=49835537

クリエイターになりたいという人は山ほどいますし、どんなきっかけで始めても構いませんが、本物になりたいというのであればそこには当然ながら相当の試行錯誤が必要でしょうし、苦しみも多々あるでしょう。

井上雄彦さんのバガボンドにこんなセリフがあります。

『格好ばかり名ばかりのつまらん奴ばかりだ。この世の中に本物が一体どれほどいるというのだ。』

その苦しみを知ってもなお、自分がなりたいと思うのであればそれは本物の気持ちなのかもしれません。

参考書籍・サイト

革命のファンファーレ / 西野亮廣, バガボンド / 井上雄彦, プロフェッショナル仕事の流儀, 情熱大陸, 火花 / 又吉直樹, TED talks, マンガを読んで小説家になろう! / 大内明日香, バタフライエフェクト 世界を変える力 / アンディ・アンドルーズ, 夢は逃げない。逃げるのはいつも自分だ。 / 高橋歩

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